累進配当とは:前の期の配当を下回らないようにする方針

累進配当(るいしんはいとう)
1 株あたりの配当を、前の期より減らさない(据え置くか、増やす)ことを、会社が方針として示すもの。

約束しているのは「減らさない」ことで、「増やす」ことまでは約束していない。据え置きの年があっても、方針どおりということになる。

よく似た言葉に「連続増配」がある。連続増配は、これまで何年続けて増配してきたかという過去の結果。累進配当は、これからも減らさないという方針だ。長く増配を続けている会社でも、方針が「配当性向 50% を目安」のような書き方なら、利益が落ちた年には配当も下がりうる。

配当方針の 4 つの型

配当方針の書き方はいろいろあるけれど、私は「下限がどこにあるか」で、次の 4 つに分けて読んでいる。表に出てくる配当性向は、利益のうち配当に回す割合。DOE(株主資本配当率)は、株主資本などに対して配当をどれだけ出すかの割合だ。

型 下限 業績が悪い年 よくある書き方
累進配当 前の期の配当額 原則として減らさない(据え置きはある) 「累進配当」「累進的な配当」「前期の配当を下回らない」
DOE などの下限 株主資本などに対する割合 その水準までは下がることがある 「DOE ◯% 以上」「株主資本配当率 ◯% を下限」
安定配当 決まった数字はない 会社の判断しだい 「安定的な配当を継続」
業績連動 なし 利益に合わせて下がる 「配当性向 ◯% を目安」

表の上にある型ほど、配当は減りにくいと思っている。ただ、実際の方針はいくつかを組み合わせて書かれていることが多い。「配当性向 50% を目安、ただし DOE 3% を下回らない」と書かれていたら、下限は DOE のほうで、前の期の配当額ではない。どこが下限になっているかを、一文ずつ確かめるようにしている。

どこを読めば分かるか

まず見るのは、有価証券報告書の「配当政策」の欄。ただ、ここだけでは足りないこともある。

読むときに気をつけていることが 3 つある。「目安」と書かれた数字は、下限ではないこと。「総還元性向」は自社株買いも含めた数字なので、配当だけの約束ではないこと。中期経営計画が新しくなると方針が変わることもあるので、そのたびに読み直すこと。

記事にしている持ち株 5 社の実例

記事を公開している持ち株 5 社の配当方針を、累進配当の 3 社、DOE の下限の 1 社、業績連動の 1 社の順に並べた。

1. アイティフォー(4743):2014 年から減らさずに来て、累進配当を導入

2014 年から 2026 年まで、配当を一度も減らしていない(据え置きの年はある)。そのうえで、2026 年 2 月 12 日の適時開示で累進配当を導入し、配当性向 50%・総還元性向 70% 以上の目標も合わせて示した。2026 年 3 月期の配当は、50 円から 80 円に増えている。

→ アイティフォー(4743)の記事

2. 第一建設工業(1799):中期経営計画の「累進的な配当」と、DOE 3.5% 以上

記念配当を除いた普通配当は、2009 年 3 月期から 2026 年 3 月期まで一度も減っていない。2024 年度からの中期経営計画「変革2028」で累進的な配当を掲げ、2026 年 5 月に見直した「変革2030」でも、累進的な配当を続けるとしている。見直しでは、配当性向 50% 以上に加えて、DOE 3.5% 以上が新しく入った。2026 年 3 月期の配当は 160 円。2027 年 3 月期は、累進的な配当を掲げてからはじめての 2 桁の減益になる予想で、配当は 160 円の据え置き予想になっている。

→ 第一建設工業(1799)の記事

3. E・Jホールディングス(2153):DOE 3.0% 以上を目安にした累進配当

2025 年 5 月期から、「株主資本配当率(DOE)3.0% 以上を目安とする累進配当」を採用している。前の期を下回らないことと、株主資本に対する配当の割合の目安を、両方とも方針に入れた形だ。普通配当は 2019 年 5 月期から 2026 年 5 月期まで、8 期続けて増えている。ただ、2011 年 5 月期と 2012 年 5 月期は、公共事業費の大幅な削減で赤字が続き、無配だった。その前例がある会社が、2025 年 5 月期に累進配当を方針にしたことになる。

→ E・Jホールディングス(2153)の記事

4. アマノ(6436):DOE 2.5% 以上という下限(累進配当ではない)

方針は、連結配当性向 60% 以上と総還元性向 70% 以上を目標にし、純資産配当率(DOE)2.5% を下限にするもの。下限が数字で決まっているのは安心材料だけど、前の期の配当を守る約束ではない。それに DOE 2.5% の下限は、今の 180 円の配当よりかなり下の水準にある。

年間の配当が 84 円から 65 円に下がった年(2021 年 3 月期)もあるけれど、これは前の期にあった特別配当 20 円がなくなったためで、普通配当は 64 円から 65 円に増えていた。一方で、リーマンショックのあとの 2009 年 3 月期と 2010 年 3 月期には、配当を 34 円→30 円→26 円と 2 期続けて減らしている。このときも、当時目標にしていた純資産配当率 2.5% 以上(2.9%・2.7%)は保ったままだった。配当の数字は、普通配当と特別配当・記念配当を分けて見るようにしている。

→ アマノ(6436)の記事

番外. 未来工業(7931):DOE は「目安」で、業績連動

方針は、配当性向 50% と DOE のいずれか高い方を「目安」にするもの(DOE は 2026 年 3 月期までが 2.5%、2027 年 3 月期からは 3%)。DOE が下限のように見えたので、私は累進に近い方針だと読んでいた。実際は利益に合わせて配当が動く業績連動で、2026 年 3 月期は 150 円から 145 円に減り、4 月に出た 2027 年 3 月期の予想は 100 円(▲31%)だった。この 100 円は、ちょうど DOE 3% の水準にあたる。7 月に予想は 135 円へ引き上げられたけれど、それでも前の期より少ない。目安の数字があっても、前の期の額を守る約束ではなかった。買ったときは、そこまで読めていなかった。

→ 未来工業(7931)の記事(選定失敗の記録)

累進配当でも、減配しないとは言い切れない

累進配当は、会社が自分で決めた方針で、法律で決まっているものではない。業績が大きく崩れたり、大きな損失が出たりすれば、見直されることもあると思う。赤字が続いて、会社法で決まっている配当の上限(分配可能額)が足りなくなれば、払いたくても払えない。

だから私は、「累進」という言葉だけでは判断しないようにしている。合わせて見ているのは次の 2 つ。

  1. 方針を出す前に、どれくらい配当を減らさずに来たか:アイティフォーは 2014 年から、第一建設工業は普通配当で 2009 年 3 月期から、配当を減らしていない。長く減らしてこなかった会社が方針にしたのなら、少し信じやすい。
  2. 減益の年に、実際に配当を守ったか:累進配当を出したばかりの会社は、まだその年を通っていないことが多い。第一建設工業は、2 桁の減益が予想されている 2027 年 3 月期が、その年になりそうだ。

方針が新しい会社を避けているわけではない。減益の年を越えるまでは、様子を見ながら持つつもりでいる。

配当方針を気にするようになった理由

2026 年の春までは、ずっと増配してきた会社なら、方針が累進でも業績連動でも、大きな差はないと思っていた。DOE の目安があれば、累進に近いとも読んでいた。未来工業の減配のあとは、方針の言葉だけでなく、下限や目安が今の配当からどれくらい下にあるかまで確かめている。

娘に渡すまでの 19 年のあいだには、景気の悪い年が何度か来ると思う。そのたびに配当が大きく減ると、持ち続けるのがつらくなる。だから今は、新しく買う銘柄を選ぶときに、累進配当か DOE などの下限がある会社を先に考えている。

いま持っている銘柄には、業績連動の会社もまだ多い。売って入れ替えるのではなく、これから買う銘柄で少しずつ比率を変えていくつもりだ。銘柄を選ぶときの基準は、銘柄選定の基準の記事 にまとめている。

よくある質問

累進配当とは何ですか?

1 株あたりの配当を、前の期より減らさない(据え置くか、増やす)ことを、会社が方針として示すものです。約束しているのは減らさないことで、増やすことまでは約束していないので、据え置きの年があっても方針どおりです。

累進配当と連続増配はどう違いますか?

連続増配は、これまで何年続けて増配してきたかという過去の結果です。累進配当は、これからも配当を減らさないという会社の方針です。連続増配の会社でも、方針が「配当性向 ◯% を目安」のような業績連動なら、利益が落ちた年に配当が下がることがあります。

DOE の下限と累進配当はどう違いますか?

DOE(株主資本配当率)は、株主資本に対して配当をどれだけ出すかの割合です。会社によっては、純資産や自己資本で計算します。「DOE ◯% 以上」は株主資本などの一定割合を配当の下限にする方針で、前の期の配当額を守る約束ではありません。私が持っているアマノは純資産配当率(DOE)2.5% を下限にしていますが、この下限は今の配当 180 円よりかなり下の水準です。

累進配当なら、減配しないと言い切れますか?

言い切れません。累進配当は会社が自分で決めた方針で、法律で決まっているものではありません。業績が大きく崩れたときや、会社法で決まっている配当の上限(分配可能額)が足りなくなったときは、見直される可能性があります。私は「累進」という言葉だけでなく、方針を出す前にどれくらい配当を減らさずに来たかと、減益の年に実際に配当を守ったかを合わせて見ています。

累進配当かどうかは、どこで確認できますか?

有価証券報告書の「配当政策」の欄が基本です。ただ、中期経営計画や決算説明資料、配当方針の変更を知らせる適時開示に書かれていることもあります。第一建設工業は「累進的な配当」を中期経営計画で掲げ、アイティフォーは 2026 年 2 月の適時開示で累進配当の導入を発表しました。